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東京地方裁判所 昭和58年(特わ)622号 判決

本籍

東京都新宿区西新宿六丁目六七番地

住居

東京都渋谷区千駄ケ谷四丁目二〇番八号

会社役員

淤見廣

大正九年二年二五日生

本籍

東京都新宿区西新宿六丁目六七番地

住居

東京都渋谷区千駄ケ谷四丁目二〇番八号

会社役員

淤見マサエ

昭和二年一一月七日生

右両名に対する所得税法違反各被告事件につき、当裁判所は検察官五十嵐紀男出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一  1 被告人淤見廣を懲役一年及び罰金一〇〇〇万円に処する。

2 被告人淤見廣において右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

3 被告人淤見廣に対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

二  1 被告人淤見マサエを罰金一五〇〇万円に処する。

2 被告人淤見マサエにおいて右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人淤見廣は、東京都渋谷区渋谷三丁目一九番一号に本店を置く淤見商事株式会社の代表取締役として同会社の業務を統括するかたわら、金地金の売買を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、いずれも右金地金売買の収入金額、譲渡原価を除外する方法により、

一、昭和五四年分の実際総所得金額が四六二三万三六四六円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)にかかわらず、昭和五五年三月一五日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、昭和五四年分の総所得金額は一二二九万二三六九円でこれに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると一六六万一九〇〇円である旨の、所得金額・所得税額をことさら過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書(昭和五八年押第六七四号の一)を提出してそのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により源泉徴収税額を控除した昭和五四年分の正規の所得税額二〇五七万六一〇〇円と右申告税額との差額一八九一万四二〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)を免れ

二、昭和五五年分の実際総所得金額が四一五八万二〇八〇円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)にかかわらず、昭和五六年三月一六日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、昭和五五年分の総所得金額は一六二八万四七〇三円でこれに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると三一二万六八〇〇円である旨の、所得金額、所得税額をことさら過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書(前同押号の二)を提出し、もって不正の行為により、源泉徴収税額を控除した昭和五五年分の正規の所得税額一七三八万六四〇〇円と右申告税額との差額一四二五万九六〇〇円(別紙(五)ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  被告人淤見マサエは、東京都渋谷区千駄ケ谷四丁目二〇番八号に本店を置く株式会社東荘の取締役として同会社の業務に従事するかたわら、金地金の売買を行っていたものであり、被告人淤見廣は被告人淤見マサエの代理人として、被告人淤見マサエの所有する財産の管理運用を行い、右金地金の売買に従事していたものであるが、被告人淤見廣は、被告人淤見マサエの財産に関し、同被告人の所得税を免れようと企て、右金地金売買の収入金額、譲渡原価を除外し、貸付金利息収入を除外する方法により、被告人淤見マサエの昭和五五年分の実際総所得金額が九三五〇万七七五〇円あった(別紙(三)修正損益計算書参照)にかかわらず、昭和五六年三月一六日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、昭和五五年分の総所得金額が五六五万四二三七円でこれに対する所得税額が源泉徴収税額を控除すると五万四八〇〇円である旨の、所得金額、所得税額をことさら過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書(前同押号の四)を提出し、もって不正の行為により、源泉徴収税額を控除した昭和五五年分の正規の所得税額五三八二万八二〇〇円と右申告税額との差額五三七七万三四〇〇円(別紙(五)ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人両名の当公判廷における各供述並びに被告人淤見廣(一三通)、同淤見マサエ(三通)の検察官に対する各供述調書

一  佐藤洋子、相生康行(抄本)、三宅弘純、荒井達弥(昭和五八年二月二八日付、同年三月三日付、同月四日付、同月九日付)の検察官に対する各供述調書

一  検察官江川功作成の昭和五八年三月一二日付捜査報告書

判示第一の冒頭及び一の事実につき

一  押収してある昭和五四年分所得税の確定申告書一袋(昭和五八年押第六七四号の一)

判示第一の冒頭及び二の事実につき

一  押収してある昭和五五年分所得税の確定申告一袋(前同押号の二)

判示第二の事実につき

一  押収してある昭和五五年分所得税の確定申告書一袋(前同押号の四)

判示別紙(一)ないし(三)修正損益計算書中(譲渡所得)につき

一  被告人淤見廣作成の昭和五七年二月一二日付申述書

一  大蔵事務官作成の金地金売買益調査書

同(雑所得)につき

一  被告人淤見廣作成の昭和五七年二月二二日付申述書

同(一)(二)修正損益計算書中(利子所得)につき

一  大蔵事務官作成の利子所得調査書

同(雑所得)につき

一  大蔵事務官作成の昭和五七年三月四日付貸付金利息調査書

同(譲渡所得)につき

一  大蔵事務官作成の譲渡収入調査書(昭和五七年三月四日付)、譲渡原価調査書(同日付)、譲渡費用調査書(同月五日付・前綴分)、譲渡所得の特別控除額調査書(同日付・前綴分)

判示別紙(三)修正損益計算書中(雑所得)につき

一  大蔵事務官作成の昭和五七年三月一日付貸付金利息調査書

同(譲渡所得)につき

一  大蔵事務官作成の同年三月五日付譲渡収入調査書、譲渡原価調査書(同日付)、譲渡費用調査書(同日付・後綴分)、同月二日付譲渡所得の特別控除額調査書

判示別紙(四)ほ脱税額計算書中淤見マサエの不動産所得欄につき

一  大蔵事務官作成の淤見マサエの54年分総所得金額調査書

同ほ脱税額計算書中社会保険料控除欄につき

一  大蔵事務官作成の社会保険料控除額調査書

判示別紙(四)(五)ほ脱税額計算書中淤見廣の源泉徴収税額欄につき

一  大蔵事務官作成の昭和五七年三月五日付源泉徴収所得税額調査書

判示別紙(五)ほ脱税額計算書中 見マサエの源泉徴収税額欄につき

一  大蔵事務官作成の昭和五七年三月八日付源泉徴収所得税額調査書及び昭和五八年六月二〇日付査察官調査報告書

なお前掲証拠、なかんずく被告人淤見廣及び荒井達弥の検察官に対する各供述調書によれば、被告人淤見廣の経歴、職歴からして同被告人は税に関して関心が強くその知識も充分もちあわせているのに、課税の対象たる金地金の譲渡益や関連会社に対する貸付金利息収入(判示第二の事実に関する)が存在することを知悉しながら、所得税逋脱の意思の下に、これが課税の対象として把握されることを回避すべく、右の所得については関与税理士である荒井達弥に全く知らせず、同人をしてことさらこれを除外して所得金額及び税額を過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を作成せしめ、これを所轄税務署長に提出し判示のとおり所得税をほ脱したものと認められるのであって、右の所得の除外が決して単なる不注意や計算違いによる記載もれでないことは明白である。

したがって被告人淤見廣の検察官に対する供述調書中同被告人に脱税の犯意がないとの記載部分は全く虚偽のものと言わざるをえず、被告人淤見廣は所得税をほ脱する意思で、所得税法二三八条一項(昭和五六年法律第五四号による改正前のもの)にいう「偽りその他不正の行為」により所得税を免れたものと認めざるをえない。

(法令の適用)

被告人淤見廣の判示第一の一、二、第二の各所為は行為時において昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一項、裁判時において右改正後の所得税法二三八条一項に、被告人淤見マサエの判示第二の所為は右改正前の所得税法二四四条一項、二三八条一項に、それぞれ該当するところ、被告人淤見廣については犯罪後の法律により刑の変更があった場合であるから刑法六条、一〇条によりいずれも軽い行為時法の刑によることとし、被告人淤見廣の判示各罪については情状により懲役刑と罰金刑を併科することとし、その罰金刑については免れた所得税額がいずれも五〇〇万円を超えるので右改正前の所得税法二三八条二項により罰金額は免れた所得税額に相当する金額以下とし、被告人淤見マサエの罰金刑については所得税法二四四条、二三八条二項により免れた所得税額に相当する金額以下とし、被告人淤見廣の判示各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法阻四八条二項により判示各罪の罰金額を合算し、その刑期及び罰金額の範囲内で処断することとし、被告人淤見廣を懲役一年及び罰金一〇〇〇万円に、被告人淤見マサエを罰金一五〇〇万円にそれぞれ処し、被告人両名において右各罰金を完納することができないときは刑法一八条により金五万円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置することとし、被告人淤見廣の懲役刑については情状により刑法二五条一項を適用しこの裁判確定の日から三年間その執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

被告人淤見廣は判示のとおり課税の対象となることを知悉しながら金地金の譲渡による収益、被告人淤見マサエの財産運用上の同人の貸付金利息収入による所得をことさら除外した虚偽過少の所得税確定申告書を提出し昭和五四年分の被告人淤見廣分一八九一万四二〇〇円、昭和五五年分の被告人淤見廣分一四二五万九六〇〇円、被告人淤見マサエ分五三七七万三四〇〇円の各所得税をほ脱していたものであって、右のほ脱税額も大きくそのほ脱の割合も高いことからして、被告人淤見廣の刑責は大きいものがあると言わなければならないが、同被告人は本件発覚後修正申告をなし、本税、延滞税、加算税を納付し、当公判廷においては反省の情を示していると認められること、被告人淤見マサエについては本件当時その財産の運用は被告人淤見廣にまかせきりであったところ、本件発覚後は修正申告をなし、本税、延滞税、加算税を納付し反省していると認められること、被告人両名とも何らの前科前歴なくまじめな人生を送ってきたものであること、その他本件に顕れた一切の情状事実を併せ考慮し主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田真一)

別紙(一) 修正損益計算書

淤見廣

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

淤見廣

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三) 修正損益計算書

淤見マサエ

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(四) ほ脱税額計算書(昭和54年)

淤見廣

〈省略〉

別紙(五) 淤見廣 淤見マサエ

ほ脱税額計算書(昭和55年)

〈省略〉

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